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「自然断面図鑑」を読んだ

偕成社の絵・リチャード・オー、文・モイラ・バターフィールドの「自然断面図鑑」を読んだ。監修は岩井修一さん。

モイラ・バターフィールドさんは他にも学習研究社から出ていた「クロスセクション図鑑 船」と「スピード」を書いています。

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断面図鑑、クロスセクションの中で自然を題材としているのは中々めずらしいです。

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この「自然断面図鑑」は動物そのものの解剖学的な断面ではなく、生き物が生活しまた作り上げた「自然」そのものを描いています。

大型船や城、ビルが人々が多様なかたちで交わり生活する場であるのと同じように、生き物たちにとっては例えば一本の樹木がそうした生活の場なのだ。

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しかし内容もさることながら、まずはリチャード・オーさんの絵がすばらしい。表紙にもなっている断面図鑑名物の4ページ見開きページ「熱帯雨林」はこれだ。

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ドーン。

熱帯雨林の樹木を根からその先まで一気に描き、最頂部・林冠部・低木層とその高さごとに熱帯雨林に住む様々な珍しい生き物を配している。当然だが実際にこれだけの種類の生き物が一つの樹木に集まることはないのだが、色とりどりの鳥たちや猿などが一つ屋根の下に生活している様は本当に楽しい。

また中心に一本の大樹を描いたことで他の断面図鑑に見られる見開きと比べても特別に圧巻の絵になっている。

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加えて本書のもう一つの特大ページ「北極の生活」はなんと縦に開く形で4ページに描かれている。このような開き方をするのは初めて見た。こちらも絵がとても良い。

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断面図鑑では平面的に切り取られた断面部分をどう描くかが一つの見どころになるが、例えば上のように水に飛び込むアデリーペンギンと断面から顔を出して魚を追うペンギンの表現なんかは生き生きしていて楽しい。

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加えて「ビーバーの巣」や「シロアリ塚」、「ミツバチの巣」など生き物自身による自然の建築物も断面で紹介されている。

「シロアリ塚」などはまるで「エンパイア・ステート・ビルディング」のようで、これを形作る様々な工夫やシロアリの生態はとても興味深かった。ただ、他の断面図鑑と比べると読みどころは若干少な目、物足りなかったかな。

「植草甚一の英語百科店」を読んだ。

主婦と生活社から出ていた21世紀ブックス「植草甚一の英語百科店」を読んだ。

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イラストレーションは安西水丸さんと本山賢司さん、デザインは水野石文さん、本文レイアウトは平野甲賀さん、と豪華すぎるラインナップです。

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この本は「J・J」こと植草甚一さんがニューヨーク見つけたものを中心にスクラップ・ブックの中から面白そうなものを取り上げて、英語やアメリカの世界を紹介しようというものだ……が、後半はわりととってつけ。植草さんのスクラップを楽しむ一冊。

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少しではありますが植草さんのいつもの文章も楽しめます。

例えば「ディスコグラフィーを作ろう」には植草甚一さんによるディスコグラフィー(レコードの録音記録)のまとめかたが書かれていて面白い。

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内容はというと、そこはそれ植草甚一さんのスクラップなので英語であっても載っている記事は他では間違いなくみられない変なものばかりです。

最初に出てくるのが上の「ペット・ロックの飼育法(How to feed Pet Rock)」。ペット・ロックってどんな生き物?と思うわけですが「石そのもの」です。「石(Rock)」がペットとしていかに優れているかが書かれています。ペット・ロックはどこへ行っても歓迎されます。動物が嫌いな人にも、動物にアレルギーがある人にも……。

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こちらは「1930年代のマリワナ売り」。マリワナの売人が使っていたスラングだらけの英語をみせた後で、それを一般的な英語で書き下してみせたもの。

他にもニューヨークにあるいろいろな「ジョン(John)」=公衆トイレを紹介、評価したレビューとか、コーヒーテラスで見つけたJazzライブのチラシとか、1886年から1979年までのコカ・コーラの宣伝コピーを年代順に並べたものとか。

どれもこれもユニークです。

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加えて安西水丸さんのイラストが可愛らしくて楽しい。上の右ページに載っているスラングなんかはまあヒドいが絵がキュートでだまされる。「ぐっとくるおっぱい」って……。

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一方で本山賢司さんのイラスト(多分)もとても良い。上のボリス・カーロフによるフランケンシュタインの怪物はぐっときた。車でファストフードを楽しむ普段のジンジャー・ロジャースのイラストも良いね。*1

平野甲賀さんによるレイアウトも自由で、眺めているだけで楽しく、中身も興味をそそられるものでとても面白かったです……英語の勉強になるかどうかは知らないけれども。

植草甚一の英語百科店 (21世紀ブックス)

植草甚一の英語百科店 (21世紀ブックス)

  • 作者:植草甚一
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

*1:未読だが出典はJohn Milton Hagenの「Holly-Would!」でもともとのイラストはオリンピックの銅メダリストであったFeg Murrayだそうな。

「スターライナーズ」を読んだ

旺文社から出ていたスチュアート・カウリーの「スターライナーズ 23世紀に活躍する宇宙船」を読んだ。監修は竹内均さん*1

副題から未来予想のような本を想像されるかもしれないが、内容はSFというか作者の妄想です。

それを言えばフィクションは何でも作者の妄想じゃないか、と言えるがこの本は成り立ちがちょっと特殊で面白い。

本書は23世紀、銀河系を支配するテラン連邦の宇宙航路を行きかう様々な宇宙航空会社の成り立ちや所有する宇宙船を紹介する図鑑であり、これから宇宙旅行を楽しもうという皆さんに価値ある情報を与えるガイドブックである。

TTAによって認可された宇宙航空会社のイラストに、本社登録所在地、登録年次、運行状況、運行区域、保有船艇とともにその説明書きが付されている。

宇宙航空会社を紹介するガイドブックという体裁がまず珍しくて興味を引く。

書いたのはテラン連邦防衛軍司令官でTTAの情報将校でもあるスチュアート・カウリー氏。

本書が特殊なのはここに載っているイラストが書き下ろされたものではない、という点だ。

普通であれば著者が設定を考え、イラストレーターがその文章に合わせて絵を描くはず。

しかし本書は、画集や小説の挿絵として描かれた複数のイラストレーターの絵を一冊の本にまとめて、それにもともとの意図とは関係なく著者が(勝手に)テラン連邦という設定のもと解説を書いたものです。

これは画集なのか?SFなのか?はたまた図鑑と言えるのか?

そうした成り立ちを知っていると特別な面白さがある。「あなたはこの絵をみてどんな背景を想像しますか」と問いかけているのであり、この本はまさにそれをまとめたものだということである。

例えばカウリーは上の絵を見て「これは異星人によって開発された知的なロボット乗務員である」と解いた。この異星人、フロフラス人はテレパシーを持っており、彼らの外見などによって連邦チームの心の内に起る嫌悪感を読み取ってしまい連邦と良い関係を保てずにいた。その対策としてフロフラス人は地球人に合わせたロボット大使を開発し、これに仲介させることとしたのである。

上はティージー・チャーター社のアベリー・アストロフリート号がピラミッド型をした専用の補給塔からエネルギーの供給を受けているところ。

下は宇宙船ではないけれどGMAトランスポート社が設立した海中輸送を専門に行うアクアツアーズ社の海底ツアー。

Peter Elsonを中心にTrevor Webb, Tony Roberts, Chris Moore, David Jackson, Fred Gambino, Nick Fox, Prieto Murianaがイラストを提供しています。

この本は「テラン交通貿易局(TTA)」シリーズの一冊で過去のシリーズ4作("Spacecraft 2000-2100 AD", "Great Space Battles", "SpaceWreck: Ghost Ships and Derelicts of Space", "Starliners: Commercial Travel in 2200 AD")はいずれも邦訳されている*2

ただ最初の「スペースクラフト("Spacecraft 2000-2100 AD")」だけは講談社から1979年にソフトカバーで出版され、著者は「スチュワート=カウリー」表記でTTAも「太陽系通商産業公社」と訳されている。こちらの翻訳はあの「宇宙軍大元帥」であらせらる野田昌宏さんだから誠に適切な人選であると言えよう。

*1:雑誌Newtonの創刊が1981年で、本書の初版が1981年11月25日の発行。

*2:Wikipediaによると別に出ている"Spacebase 2000"は"Spacecraft 2000-2100 AD"と"Great Space Battles"をまとめたもの、とのことである。