自由に書くのがおれのインターネットだ。

「おれのインターネット」。タイトル通りのブログ。ただし、内容はまったくパンクではありません。

マンガゲームブック「鏡のなかへ」を遊んだ

おいしいたにしさんのマンガゲームブック「鏡のなかへ」を遊んだ。

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中身に入る前にですが、まず表紙が魅力的です。主人公マリーのすっと迫ってくるような瞳が印象的でゲームの雰囲気にも大変あっていると思う。ストーリーを進めていくとこの表紙の意味もだんだんと分かってきます。

おいしいたにしさんはこれまでにも様々な面白いギミックを取り入れたゲームブックを発表していて、本作もとても楽しんだ。

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普通は文章を中心に進めていくゲームブックに対し、本作は全編がマンガで構成されている。さらにマンガにした利点を生かして、移動先を指し示す数字がイラストの中に隠されている、というギミックを用いることで「探索」を表現している。

例えばこんな感じ……。

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ここでは他の部屋に移動するドアやテーブルに置かれたココア、そしてベッドを指し示す数字のほかにも隠された数字を発見することができる。

この仕掛けにより、移動するたびに漫然と別のページへ行ってマンガを読むのではなく、未知の行き先を自分で見つけることとなり、自身で道を探し当てる楽しさがある。

おいしいたにしさんは本作で「クロックタワー」をゲームブックで実現できないかと試みた、と書かれていて、か弱い少女となって不気味な洋館で様々な仕掛けを発見していくところが本当によく再現されているなと遊びながら感じます。喜び勇んで見つけた仕掛けが全てうまくいくとは限らないのです……。

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加えて「クロックタワー」にある「殺人鬼」とのエンカウントを表現するギミックもあって、こちらも雰囲気を盛り上げます。詳しく書きませんが僕はこの仕掛け結構好きです。

かてて加えて最後には3Dダンジョンが待ち構えているというサービス精神のかたまりです。本当にごちそうさまでした。

アイテム数は13あり、多くのバッドエンディング(笑)を含む11のマルチエンディングとなっています。パラグラフ数は150弱と、ゲームブックとしては多い方ではありませんが、場面ごとに絵をじっくり見る必要もあってかなり満足感がありました。

というわけで、ダリオ・アルジェント監督作品のファンでもある僕にとって大満足の一冊でした。

難易度はそこまで高くなく、マンガであることも相まって、小学校高学年くらいの子どもでも遊べるんじゃないかと思います。怖いけど。もちろんゲームブック慣れしていない人にも勧めやすい。

机に置いておいたら息子が発見して興味を持っているようだったので、そっと共用本棚にしまっておきます……。

tanishi.org

ゲームマーケット2021大阪、購入したものまとめ

2年ぶりとなったゲームマーケット2021大阪を楽しんできました。実際にゲームを遊ぶのはこれからですが、ここで今回購入した作品をまとめたいと思います。順不同。

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ンヌ「ピンポンパン」 1500円

リゴレさんで売られていたゲームデザイン・ンヌさん、アートワーク・別府さいさんのアクションゲーム。

一生本気が出ないンヌさんの愛らしい様子が話題となったプレイ動画をみると、はい面白い。もう面白い。

子どもたちと遊ぶのにうってつけなのですぐに買いました。20部程度しか無いようだったのでどうかと思いましたが買えて良かった。早く遊びたい!

おまけのンヌ駒もかわいい。

LynxTIP「トップアイドルメーカー」2500円

娘のためにとにかくかわいいやつを探していたところ、どストレートをついてくる奇跡の一品。

gamemarket.jp

効果ありのセットコレクションのようでまだ娘には難しすぎますが、ハートのトークンも可愛らしく娘の食いつきがすごかったです。

アイドルたちの描かれたユニークカードを一枚一枚みながら自分の「推し」を説明してくれる娘……。これルールとかなくても一人でハートのっけて遊びだすやつだな。

アートワークばっかり語ってしまいましたが人数は2人から、対象年齢も低めからOKみたいなので今度やってみよう。

倦怠期「NERVOS」1200円

taiki shinzawaさんの「NERVOS(ネルボス)」。秒でルールが伝わるシリーズその2。

ペントミノを組み合わせて図形に合わせるところはウボンゴと同じですが、そこから少し変えるだけでちゃんと違うゲームになっているところがとても面白い。

gamemarket.jp

帰って家族にみせたところ息子がうんうんうなって遊んでいました。誰かが考えていると皆のぞき込んじゃう。

ルール上は頭の中で考えて答えがわかってから実際に並べる、というものですが家では「難しすぎる」との声がありウボンゴのように手元でいじって考えていました。「難しい」と書きましたが、遊んでいると段々頭の中でもできるようになってくるみたいで、その感覚も非常に楽しい。

個人的にはペントミノがタイルなどでなくブロックを貼り合わせた立体であるのも楽しさに貢献している気がします。拡張を出してくれてもええんやで。

029 PRODUCTS「コントラスト」1000円

おにくプロダクツさんによる、ミニマルなデザインでとにかく洗練されたアブストラクト・ゲームです。映えがすごい。

最近アブストラクトに対する苦手意識が軽減されてきたので取り置き予約していました。

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道具屋さん「魔剣TACTICS」2500円

一人専用の!タワーディフェンス!手作り!!(語彙力)。

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booth.pm

今回のゲームマーケットでは「ソロプレイにも対応」というゲームが増えてきているように感じているのですが、ソロ専用というのはまだまだ珍しい。ありがたい。

Studio GG「きょうあくなまもの」1000円

定番・鉄板と言われるミニマル二人用対戦カードゲーム「きょうあくなまもの」。以前から気になっていたのですがついにゲムマ特価で手に入れました。息子と遊ぶぞ!

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studiogg.doorblog.jp

海外版(「Terrible Monster」)もあるのですがカード構成は異なるようです。

賽苑「ReCURRRING」1800円

賽苑さんの「ReCURRRING(リカーーーリング)」も以前から気になっていたゲームですがゲムマ大阪で売っているのを見かけたので購入しました。

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「ReCURRRING」は2016年発表のゲームで、面白いらしいとそこここで見聞きしていました。ただ文章ではいまいちルールから勘所が頭に入ってこず迷っていたのですが、直接説明していただいて面白さがよく分かりました。ご本人も説明が難しいとおっしゃっていましたし。作り手さんから直接作品について解説してもらえるのもゲムマならではの楽しみですね。

一度理解してしまえば、ルールそのものにはさほど難しいことや例外もないのですんなり遊べそうです。

うーん、このゲームは大人同士でじっくり遊びたいなあ。なんというか楽しみどころというか面白さが実にシブい。ルールもアートワークもカードの質もザ・スタンダードの貫禄。

アヂサワゲーム「第76回全国放屁大会」「ヌイグルミ野球カウントスリーツー」各1000円

最後はアヂサワモユキさんの新作と旧作。

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新作の「第76回全国放屁大会」はミを出さずに長いオナラをこくゲームです。アヂサワさんに何があったのでしょうか。心配です。

↑日本一上品なゲームです。今ジャロに電話しようとしている、そこのあなた……何をしている、止めませんよ、早く電話しなさい。

LynxTIPさんのゲームとは対照的にこちらは娘にとても不評でした。私の視界に入れてくれるなとのことです。

息子ははじめは嫌がっているように見えましたが徐々に「『放屁』ってなんて読むの?」「なんで第76回なの?第1回じゃないの?」(知らんがな)と質問しはじめ、最終的に「これやりたい」と自ら言い出しました。息子の成長を見た。

gamemarket.jp

adisawagame.booth.pm

冗談はここまでにして。

「ヌイグルミ野球カウントスリーツー」は野球のかけひきをテーマにした二人用カードゲームでこちらは掛け値なしに息子の食いつきが良い。一緒に遊んでくれそうで良かった!

スポーツをテーマにしたゲームは重めであったりルールが煩雑であったりしがちな印象なので、エッセンスをシンプルに抽出したゲームは本当に楽しみ。

以上です。おまけにゲームマーケット20周年記念のツーウェイコットンバッグ1000円も買いました(地味に色々なこだわりがみられるつくりで良い)。

しかし来月はすぐにゲームマーケット春ですね。僕は参加できなさそうですが通販しているゲームもあるので期待!

「震える血」「喘ぐ血」「囁く血」を読んだ

祥伝社文庫から出ていたエロティック・ホラー(アンソロジー)「震える血」「喘ぐ血」「囁く血」を読んだ。

ジェフ・ゲルブを編者としたアメリカのホラー・アンソロジー「Hot Blood」「Hotter Blood」「Hottest Blood」から選りすぐられた短編集である。

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「エロティック・ホラー」とあるが、エロはエロでもお上品な「エロス」ではない。エロスとバイオレンス、映画やロック音楽などのサブカルチャーに彩られ、スプラッタパンクの渦中にある鮮烈な作品ばかりだ。

収録されている作品は40ページ程度の短編がほとんどで、映像的な作品やちょっとふざけたコメディタッチのもの、肉体的なものから精神的なものなど作品ごとに大きく趣向や印象が違っていて読んでいてとても楽しいアンソロジー

内容にいく前にまずは表紙。恋月姫さん*1球体関節人形が雰囲気にとても合っていてすばらしい。

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エロティックではあってもグロテスクではない人形たちでありながら、本書のイメージにぴったりの不穏な雰囲気が感じられ、読む前から期待感が高まる。

書き始めるとキリがないので各巻から一つ二つずつ紹介したい。

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まず「震える血」は新旧様々な作家の作品が収録されている。他の巻と比較しても有名どころの作家の作品が多い印象。

収録作品は以下の通り:グレアム・マスタートン「変身」、リチャード・マシスン「わが心のジュリー」、F・ポール・ウィルスン「三角関係」、ロバート・R・マキャモン「魔羅」、リチャード・クリスチャン・マシスン「サディスト」、マイクル・ギャレット「再会」、ハーラン・エリスン「跫音」、ゲイリー・ブランナー「イーディス伯母の秘術」、ロバート・ブロック「モデル」、ジェフ・ゲルブ「おしゃぶりスージー」、レイ・ガートン「お仕置き」、デイヴィッド・J・ショウ「赤い光」。

この中からは筆頭のグレアム・マスタートン「変身」。

これはアンソロジーの最初を占めるにふさわしい大変面白い作品だった。出張先のアムステルダムで美女に出会った男が……という話。短編なのでネタバレはさけるが(特に男性には)ぜひご一読頂きたい。図書館で立ち読みでも構いません。すぐに読めます。内容の骨子たる設定自体はありそうなものではあるが、そこからまた一ひねり、二ひねりされていて結末まで飽きない。本作品ではエロスは控えめながらあからさまでもあり、なおかつそれが不可欠な表現であったことも読み終わると感じられる。「ホラー」の懐の深さを感じつつ、いろいろと考えさせられるところも多かった。余談ですが「アムステルダム」という場所選びも良いと思う。

グレアム・マスタートンの作品は他にも「喘ぐ血」で「最上のもてなし」、「囁く血」で「おもちゃ」が収録されている。これらも同じくとても良い。都会に働く成功した女性である主人公のもとに様々な珍しい贈り物を届ける男性があらわれる「最上のもてなし」。クラシックな雰囲気を含めつつもはっきりと現代をテーマにした作品でとても面白かった。「おもちゃ」は金持ちの夫のために手術によって二つめの「あそこ」を移植した女性の話。色物話と思いきや、こちらも中々考えさせられる。各巻に含まれるマスタートン作品のエログロ度合いはちょうどHot, Hotter, Hottestという感じ。

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次に「喘ぐ血」の収録作品は、リチャード・レイモン「浴槽」、レイ・ガートン「虚飾の肖像」、ナンシー・A・コリンズ「魔性の恋人」、マイクル・ニュートン「ベッドルーム・アイズ」、ゲイリー・ブランナー「女体」、ポール・デイル・アンダースン「底なし」、グレアム・マスタートン「最上のもてなし」、ドン・ダマッサ「改竄」、R・パトリック・ゲイツ「硬直」、ジョン・シャーリィ「真珠姫」、カール・エドワード・ワグナー「淫夢の女」。

仮にもエロティック・ホラー・アンソロジーを名乗るのであれば女性作家は外せないでしょうと思っていたところにナンシー・A・コリンズ「魔性の恋人」。期待通りに女性作家らしい触覚を想像させる艶めかしい「魔性の恋人」が登場し、スプラッタでありながら何だか詩的に読めてしまうところがまさに耽美の世界。

またリチャード・レイモン「浴槽」は結構とんでもない作品で、読み終わったとき誰かに話さずにはいられなかった。夫の留守中に妻が筋骨隆々の愛人と浴槽でのセックスを楽しむが、途中で愛人が死んで身動きが取れなくなってしまい……という内容でシチュエーションはスティーブン・キング「ジェラルドのゲーム」だが、まあ全然違う。ただただ楽しい。

しかし「喘ぐ血」の中では何といってもジョン・シャーリィの「真珠姫」を推したい。この作品にはいわゆるモンスターが登場するのだが、これが僕がこれまで読んだ中でもっとも「ひどい」モンスターでした。皆にも味わってもらいたい。なんだこれ(笑)ジョン・シャーリィの作品は「囁く血」にも「愛咬」が収録されていて、こちらもかなり良い。「真珠姫」同様に日常の世界から段々とホラーの展開に引き込まれていき、最終的にこちらの予期していた地点を軽く通過して、想像を超えた奴らのもとに連れて行かれる。おすすめ。

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3冊目の「囁く血」。収録作品はナンシー・ホールダー「人魚の歌が聞こえる」、ベントリー・リトル「数秘術」、デイヴィッド・J・ショウ「心の在処」、エリザベス・マッシー「疵物」、グレアム・ワトキンス「妖女の深情け」、マシュー・コステロ「闇の中」、ドン・ダマッサ「淫夢の男」、グレアム・マスタートン「おもちゃ」、ジェフ・ゲルブ「ビデオ収集家」、クリス・レイチャー「異形のカーニバル」、マイクル・ギャレット「いまから三つ数えたら」、ロン・ディー「おかまのシンデレラ」、ジョン・シャーリィ「愛咬」、グラント・モリスン「情欲空間の囚」。

中でもグラント・モリスンの「情欲空間の囚」は、オカルト探偵オーブリー・ヴァレンタインを主人公とした話で、アメコミライターでもあるモリスンならではの面白い作品。映画「コンスタンティン*2が好きな人にはささる一品。石膏で塗り固められた両目、汚れた包帯がまかれた左手。そこに入った者を男女問わず情欲の渦に飲み込んでしまう謎の部屋に挑む。最後まで格好良い。シリーズ化してほしいくらいだけれど多分映像化は無理。コミックス化もまあ無理。

「“ミステリーズ”と一戦交えることになるぞ」
(「囁く血」所収、グラント・モリスン「情欲空間の囚」P333)

以上、ここには書ききれないがどれも読みどころのある面白い作品ばかりだ。ただ「重厚な」ホラーとは言えないものが多いので、夜中に一人でこっそりと気楽に楽しむのがおすすめ。ちなみに悪趣味であったり下世話であったりはするものの、いやな気分になるものはなかった。

最後にこのアンソロジーのもう一つの楽しみは、尾之上浩司さんによる作家紹介と解説です。詳細に作家やこのアンソロジーが刊行に至った背景となるホラー事情が細かな情報とともに解説されていて面白い。

いやはや本当に良かった。

*1:http://koitsukihime.jp/

*2:この場合、DCコミックス「Hellblazer」と言った方が良いのか。