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「輪切り図鑑 クロスセクション」を読んだ

リチャード・プラット文、スティーヴン・ビースティー画の「輪切り図鑑 クロスセクション 有名な18の建物や乗物の内部を見る」を読んだ。

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岩波書店から出ているこの輪切り図鑑シリーズでここに紹介するのは三冊目。

amabiee.hatenablog.com

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順序としては他の二冊よりも早く、最初に出版された本です*1

実際、一番最初に発行されているだけあって多種多様な18種類のものを輪切りにして紹介しており、輪切り図鑑初心者の方にもお勧めできる一冊です。まあむしろ船と城だけをひたすら紹介する前二冊がおかしいような気もしますが。

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船や城という一つのシステムを(文字通り)様々な視点と切り口から表現することでその時間や人、ものの流れまでを表現してみせた二冊とは対照的に、こちらはジャンルもそして当然楽しみ方も異なる18種を列挙して見せることでものの構造や仕組みが見えない部分にいかに隠されているのか、そこからどんな興味を引き出せるのかを教えてくれます。

これだけ色々あれば誰でもどれか一つには興味持つでしょう?

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対象が異なれば当然輪切りの見せ方も違ってくるわけで、見せるものに応じてどんな表現をしてくれるのか、がひとつの楽しみになります。

例えば上の「自動車工場」では自動車製造の過程が圧縮され横の流れとして表現され、どんなロボットが動き、その中で働く人たちがどんな役目を果たしているのかが面白く描かれています。

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一方で「エンパイア・ステート・ビルディング」。

階数102階、高さ448.7メートルもの縦長建造物(右上)をこのピラミッドのごとき横長の絵に納める描き方は大胆だが、おかげでこの巨大なビルと人の大きさの対比や隠された構造をよく見ることができる。

ここでは目につきがちな地上部分だけでなく、隠された地下部分にあるビルの基礎や電気・空調なども詳しく書き込まれていて図鑑としての良さを示している。

もちろんプラット、ビースティーの輪切り図鑑の特徴たる「毒」もあります。例えば「でっかい話」ではジョン・ジェイコブ・ラスコブら実業家たちの目的は「いちばん美しい摩天楼を建築すること」であったが同時に「お金をもうけるためでもあった」とか、「急いでつくれ」では「エンパイア・ステート・ビルは最短記録で完成した」が「14人が事故で死んだ」などと記されている。こういった部分も細かいところまでずずーっと読んでいきたくなる魅力です。

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ズバーンと観音びらきの特大ページ(4ページ見開き)は「大洋航路客船」「汽車」と、ふたつも載っています。

表紙にもなっている「大洋航路客船」ではクイーン・メアリー号の美しさそのままに、そのとてつもない巨大さを伝えています。

「汽車」では機関車フライング・スコッツマン4472号を取り上げて、その機関部分と同時に客車内の映画やシャワー、食事など優雅な時間までが描かれています。ワインを楽しむ英国紳士の足元に無骨な機関車の車輪が並ぶさまを見ていると、自分が乗り物を利用するとき足の下にどのような装置が詰め込まれているのかを意識するようになる。

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旧ソ連T-34を紹介する「タンク(戦車)」。4人の乗組員がタンクという「戦争の機械」の一部、装置であることを示すがごとく、司令官のお腹も一緒に輪切りにされています*2

これ一冊で輪切り図鑑の色々な楽しみ方と魅力を発見できるはずですので、図書館や古書店などでぜひ手に取ってみて下さい。

*1:他の二冊は1994年、この本は1992年に発行されています。

*2:他ではこういった表現は見られない。機械は輪切りに分断されていても人はつながったまま描かれている。