「殺戮の<野獣館>」「逆襲の<野獣館>」を読んだ
リチャード・レイモンの「殺戮の<野獣館>」と「逆襲の<野獣館>」を読んだ。
早速だがこの「殺戮の<野獣館>」はとても面白い。「傑作」と言って良い。もしあなたが外連味あふれるエンターテイメントとホラーをお好きならば、何はともあれ今すぐ手に取り、読みはじめた方が良い。
僕自身は正直興奮冷めやらぬ、といった感じで、好きな「ホラー小説は?」と聞かれたらこの「殺戮の<野獣館>」を挙げてしまいそうな勢いです。岩郷重力さんによる表紙も素敵。
「殺戮の<野獣館>」は血生臭く、セックスと悪趣味に溢れた作品であり、上品ぶったホラーを吹っ飛ばす。
ある意味でスプラッタホラー映画のようなノリだが、まぎれもなく本作はそこらのB級ホラーを軽く超えた最B級作品だ。本作を読んだ人は映画化されてるんじゃないかと一瞬考え、すぐに映像化は無理だと思い直すだろう。
主人公は、美貌の母親ダナ・ヘイズと、百戦錬磨の兵士ジャッジメント(ジャド)・ラッカー。これに対するは、ダナの夫にしてペドフィリアの鬼畜ロイと、怪物が凄惨な事件を引き起こしていると言われる<野獣館 ビーストハウス>である。
娘と共に逃亡するダナ。正体不明の<野獣館>に対して最初からアクセル全開(笑)でダナを追うロイ。<野獣館>に潜む「野獣」を滅せんとする戦士ジャド。彼らの視点が交互に語られ、最初から勢いを落とすどころか結末に向けて盛り上がるばかりの展開が続き、<野獣館>に至り収束……いや炸裂する。
「逆襲の<野獣館>」は「殺戮の<野獣館>」の続編である。
こちらには二人の女性タイラーとノーラ、元海兵隊エイヴとジャックが主人公として登場する。これに<野獣館>をネタにした作品を執筆しようとするゴーマン・ハーディ(本作の鬼畜枠)がからみ、「野獣」の秘密が明かされる。
「殺戮の<野獣館>」のその後も描かれており、前作に興奮した読者は間違いなくこちらも手に取ることになるだろう。
ただし、単独の作品としてみるとこの続編は内容的に「殺戮の<野獣館>」に大きく劣っていると感じた。「逆襲の<野獣館>」も十分面白いのだが、「殺戮の<野獣館>」の出来が良すぎた。ページ数としては続編の方が長いのだが、後日譚くらいに捉えると良いだろう*1。
ちなみに原題は1作目の「殺戮の<野獣館>」が「The Cellar」*2、続編の「逆襲の<野獣館>」が「The Beast House」である。
さらなる続編「The Midnight Tour」と最終作「Friday Night in Beast House」が発表されているが邦訳はされていないようだ。非常に残念。
リチャード・レイモンの短編「浴槽」はアンソロジー「喘ぐ血」に収録されている。こちらも最高なので是非。
「スーパータキ」をプレイ
カードゲーム「スーパータキ SUPER TAKI」をプレイした。
2人から10人までで、一戦は人数にもよるが数分程度で終わる。対象年齢は6才から。ゲームデザインは「ハリガリ」「スピードカップス」の作者でもあるハイム・シャフィールさん。
「タキ」にはいくつかのバージョン違いがあるようだが、僕が持っているのは Shafir Games版。
基本的なルールは「UNO」と同じといえば話が早い。公式のルールは以下。
一人に8枚ずつカードを配って残りは山札にし、手札を使い切ったプレイヤーが勝利する。
最初に山札から一枚めくり、そこから「同じ色」か「同じ数字・マーク」のカードを順に出していく。手札が一枚になったときは「最後の一枚!」と宣言する必要がある。
「スーパータキ」を特徴づけるのがアクションカード。
左から「Change Color」「Plus」「Stop」「Change Direction」「+2」。Change Colorは次のプレイヤーが従う色を変更する*1。Stopは次のプレイヤーを飛ばす。Change Directionは手番順を逆にする。+2は次のプレイヤーに2枚ひかせる*2。このあたりは「UNO」を知っていれば同じ。
Plusを出したプレイヤーはそれに続けてもう一枚プレイできる。
加えて、+2を受けたプレイヤーは手札に+2があればそれを出して2枚引くことを回避できる。その次のプレイヤーも同様にこれを繰り返し、出せないプレイヤーはここまで出された+2の数x2枚引かなければならない。
余談だが、「スーパータキ」と異なり「UNO」の「ドロー2」は公式にはこうして重ねることはできないらしい。
If someone puts down a +4 card, you must draw 4 and your turn is skipped. You can’t put down a +2 to make the next person Draw 6. We know you’ve tried it. #UNO pic.twitter.com/wOegca4r0h
— UNO (@realUNOgame) 2019年5月4日
さらに「スーパータキ」をタキたらしめるアクションカードが以下のTakiカード。
「Taki」(左上)は同色のカードに重ねて出すが、それに続けて好きなだけ同色のカードを手札からプレイできる(途中で色を変えたりはできない)。カラフルな方の「Super Taki」はどの色の上にも重ねられ、その色の「Taki」として扱う(色を変えられるわけではない)。
これがかなり効いていて、同じ色のカードを一気に全て捨てられるためカードがかなり溜まっていてもそれほど絶望的な気持ちにならず逆転が可能である。
これに加えて、前のカードの効果を消して好きなカードを出せる「King」やすべてのプレイヤーに3枚引かせる「+3」、+3を無効にして相手に3枚引かせる「+3 Breaker」がある。
「+3」や「King」は枚数も少なく「UNO」ほど派手ではないが、バランスが取れていながらも「+2」の応酬や「Taki」による巻き返しなど爽快感のあるプレイを楽しめる。この落ち着きのあるバランスで「UNOよりも好き」という人も多いようで、僕も子どもと遊んでいてもプレイがいじわるな感じにならないのが良いと感じた。
ルールもシンプルでさくっと終わり、小学生から遊べて、10人までいけるとのことなので家族で遊ぶのに相当重宝するのではないか。実際我が家では重宝しており、最近はかなり遊んでいる。
体験してみたい方は無料のアプリ版もある(ただし、醍醐味はやはり対面での多人数ゲームだと思う)。
apps.apple.com最後に、別の説明*3やアプリでの裁定をもとに、付属のルールを読んでも不明だったいくつかの点について補足する。
- 出せるカードが無い場合、山札から1枚引く。出せるカードがある場合でも、それを出さずに山札からカードを引いても良い。
- 2人プレイの場合、Change Directionはなんの効果も生まない。
- Takiの効果で続けて出した同色のアクションカードの効果は発動しない。ただし、最後の一枚がアクションカードであった場合、その効果は発動する。また、途中でKingを出した場合そこでTakiの効果は終わり、続けてもう1枚好きなカードを出せる(Kingの効果を優先)。
- Change Colorや同色のTaki、Super Takiも、Takiの効果で出すことができる。もちろん、最後の一枚でなければ効果は発動しない。
- Kingに続けてSuper Takiを出した場合、そのSuper Takiは好きな色のTakiとして扱える(続けて出すカードの色を決められる)。
- +2が出されているときに、+2を出したりカードを引かされたりする代わりに、Kingを出して効果をキャンセルして好きなカードを続けて出せる。それまでに出された+2の分のカードは誰も引かなくて良い。
- +2が出されているときに、+3を出すことでそれまでに出された+2の分のカードを引かずに他の全員に3枚引かせることができる。ただし、これに対して+3 Breakerが出された場合はその分の3枚に加えて、それまでの+2の分のカードも引かなければならない。
- +3をKingで打ち消すことはできない。ただし、+3を出した人の次の手番の人はKingを出すことでそのプレイヤーだけは3枚引くことを回避できる。
- 手札に+3と+3 Breakerだけであったとき、+3を出して続けて自分で+3 Breakerを出して上がることができる(3枚引いたりしなくて良い)*4。
- 最後の一枚がKingであった場合、それを出した時点で上がりになる(続けてもう1枚出す必要はない)。
- Plusを出した後、続けて出せるカードが無かった場合は代わりに山札から1枚引かなければならない。最後の一枚がPlusであり、それをプレイした場合、山札から1枚ひく効果を解決しなければならない(あがれない)。Takiの効果で最後に出した場合でも同じ。
- 最後の一枚が+2であったとき、他のプレイヤーが全て+2で返した場合、その分引かなければならない(上がれない)。
*1:色を変更するだけで手番は次へまわる。
*2:2枚ひいたプレイヤーの手番は飛ばされる。
*3:公式ページの「よくある質問」https://www.takigame.com/faqは実質必読。
*4:出された+2に対して+3と+3 Breakerを同時に出した場合は、それまでに出された+2の分カードを引かなければならないものと思われる。従って上がれない。
「火星の土方歳三」「金星のZ旗」を読んだ
吉岡平さんの「火星の土方歳三」と「金星のZ旗」(ソノラマ文庫1034と1045)を読んだ。
カバーと本文のイラストは末弥純さん。
まず最初に言うべきこととして、僕はエドガー・ライス・バローズの「火星シリーズ」は恥ずかしながら未読である。しかし未読であるからこそ、未読であっても、いや未読だからこそ楽しめる作品だと断言できる。
「火星の土方歳三」のあらすじは、2004年の発刊当時にそのような言葉が妥当であったかは分からないが「異世界転生もの」にあたる*1。
しかも、あの新選組の土方歳三がバローズの火星世界へ転生する。これが面白くないはずがない。この「火星世界」バルスームは戦神マルスの名に恥じず戦いに満ちており、四本腕の異形である緑色人や十本足の恐るべき火星獅子バンス、六本足の大白猿などなどトールキンのファンタジー世界などとも全く異なるスリリングな世界である。そんな中で土方歳三が剣をふるって冒険するとなれば、元の「火星シリーズ」を知らずとも胸が高鳴るというもの。
日本においてバローズの「火星のプリンセス」と言えば、武部本一郎さんの装画が欠かせないが、末弥純さんの描く美女もまたそれに勝るとも劣らない素晴らしい雰囲気。
同じ2004年に刊行された「金星のZ旗」の表紙では、陸上の(!)戦艦の前に毅然として立つ火星の美姫が描かれていて、構図といい、とても印象深い。
「金星のZ旗」は「火星の土方歳三」の正式な続編である。ただし、舞台は金星コスーム、主人公は土方によって招かれた艦隊参謀・秋山真之。こちらも秋山真之が火星とも異なる未知の世界、金星で冒険を繰り広げるのだが、武闘派の土方歳三とはまた違った展開を見せるのが面白い。序盤、前作には現れなかった、あの「ドタール・ソジャット」も登場する。
土方と違ってさほど武勇にすぐれるわけでもない秋山が両手に美女と、なぜかしらモテるというのも異世界ものらしい。そして、最後……故郷への途についた秋山に訪れる驚愕の結末(笑)。
後半、露骨な社会風刺のやり取りが唐突に続く場面があり水を差された気持ちになったが、「あとがき」によればそれも「金星シリーズのパロディ」としてわざと書かれたものであることが説明されている。
最後に「火星の土方歳三」の14章は「燃えよ剣、ふたたび」、「金星のZ旗」の第三部は「坂の上の二重雲」であるあたりから、「火星・金星シリーズ」だけのパロディでないことは明白だろう。
単なるパロディであるに留まらず、これら自身が非常に面白く、また読後には元になった「火星シリーズ」を読みたくなること請け合いの二作だった。